ネタバレ注意
ミステリーといえども人間ドラマ
東名高速道路で玉突き事故に巻き込まれて死亡した娘の死の謎を解くために奔走する父親(田村正和)の姿を軸に描くミステリードラマ。
犯人は、おおよそ見当がつく(ただし、共犯者は意外な人物)が、ドライバーの目眩しに使われた謎の赤い火の玉の謎解きがミステリーのメインの軸に。
そして人間ドラマとしてのメイン軸は、カメラマンとして仕事ばっかりで家族を顧みないことで、死に目にも会えなかったことで自分を責める父親の心理的変遷。
カメラマンとしてのカン、父親の執念、そして通夜、葬式にも行けなかったことへの娘への申し訳なさから犯人追及を続ける山内の姿が描かれる。(このあたりの複雑な心理的苦悩の描き方は省かれている。原作が書かれたのが1980年という時代もあるのだろう。2010年代のドラマならこの辺りの心理ドラマはもっと丁寧に描かれるかな?と)
真相を解明し、犯人逮捕後も虚しさを拭いきれない山内。しかし最後に、死んだ娘の所持していたキーホルダーのUSBメモリの中の動画の娘のメッセージ動画によって山内はようやく「許し」を得る。
このエンディングの付け方は見事。さすが松本清張。やはり、長く読まれる(見られる)ドラマ、小説というのは、単なる謎解きだけではなく、しっかりした人間ドラマも描かれていないと視聴者の共感を得づらいと思われる。
ミステリー、サスペンスドラマと言えども、である。
家族を顧みずに、仕事にかまける父親が、罪滅ぼしがわりに犯人を追い詰める…という設定と、名声や虚栄心のために人の命を犠牲にしても何とも思わないサイコパス、権力者の謀略犯罪を闇に葬らずに明るみに出す、ことをストーリーに螺旋状に二つの軸を絡め、作者が描きたかった父親の娘への愛。そして最後に明かされる、USBメモリの中の娘のメッセージが示す父親への愛。家族を放置したことで罪悪感を背負っている父親を見越した娘の言葉「自分を責めないで」という言葉に示される娘の父への愛。
構造的に分析すると、こういう感じ?(父娘の愛を松本清張はこのドラマの見えない軸にしている?)読者が感動するのは、この人間ドラマの部分だろう。
『十万分の一の偶然』(じゅうまんぶんのいちのぐうぜん)は、松本清張の長編小説。『週刊文春』に連載され(1980年3月20日号 – 1981年2月26日号、連載時の挿絵は濱野彰親)、1981年7月、文藝春秋から単行本として刊行された。アマチュア・カメラマンの撮影した一枚の報道写真をめぐって、現代社会の犯罪像を描く、クライム・ミステリー。
エピソード
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- 藤井康栄によれば、本作のアイデアのきっかけになったのは、1955年5月の紫雲丸事故であり、連載の打ち合わせの時、著者は、同事故の際の報道写真問題を例に出しながら構想を話していたという[1]。
- 本作の担当編集者の鈴木文彦は、作中のトリックが実行可能な、すべての条件を満たす地点を、東名高速上で探すよう、著者から求められ、東京から同道路上をたどり、ようやく見つけたのが沼津インターチェンジ手前であった[2]。
- 著者は、イギリスの作家・ロイ・ヴィカーズの迷宮課シリーズを好み、特に「百万に一つの偶然」に感心したと発言している[3]。推理小説研究家の山前譲は、本作が生まれたのは同作のタイトルからと推定している[4]。
- 本作で描かれる犯罪に関して、劇作家の別役実は、本作刊行後に発生した、韓国のアマチュア・カメラマンが、若い女性をだまして山中に連れ込み、毒を飲ませ、苦悶して死亡するまでの様子をカメラにおさめた事件を取りあげ、「世界は単なる映像に過ぎないと感じ、「死」の映像が必要だったがために、人を殺した」点で、本作のアマチュア・カメラマンと極めてよく似ている、と指摘している[5]。
2012年版
松本清張没後20年 ドラマスペシャル
十万分の一の偶然
「松本清張没後20年・ドラマスペシャル 十万分の一の偶然」。2012年12月15日(21:00 – 23:06)、テレビ朝日開局55周年記念番組第一弾「松本清張没後20年 2週連続ドラマスペシャル」の第一夜として放映(テレビ宮崎は同年12月17日の放映)。視聴率18.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。主演の田村正和はこの作品に魅力を感じ、約1年9か月ぶりに俳優として復帰を果たした[7]。
今作においては原作とは異なるアレンジ要素として、原作の主人公の沼井正平を「山内正平」とに改め、彼と山内明子を父娘の関係に設定している。また、原作では明子の姉に当たる山内みよ子は登場しない代わりに、正平の妹の山内恵子が登場したり、明子の婚約者としての役回りの人物として塚本暁が登場するといったアレンジがある。
さらに今作は21世紀の現代日本を舞台としている関係で、原作が発表された1980年代にはまだ存在していない電子料金収受システム(ETC)が犯人が用いるトリックの中に含まれる形で登場する。
今作以降、田村はテレビドラマでの仕事を単発ドラマにほぼ絞り、その中でも特に松本清張作品への主演を中心に(田村最後の清張作品は16年放送)取り組んだ。
2019年8月18日には「テレビ朝日開局60周年 夏の傑作選」の一環として、『日曜プライム』枠で放送された[8]。
2012年12月15日放送
娘はなぜ死ななければならなかったのか…この写真は本当に偶然撮影されたものなのか――娘を高速道路の玉突き事故で亡くした父親が、この事故の瞬間を偶然写した報道写真を目にし、事故の発生そのものに疑念を抱き、執念で真相を突き止めていくミステリー!(C)テレビ朝日・東映
モンゴルの平原で取材を続けるフリーのルポライター・山内正平(田村正和)のもとへ、一人娘・明子(中谷美紀)の婚約者・塚本暁(小泉孝太郎)から思わぬ悲報が届いた。妻が亡くなって以来、男手ひとつで育ててきた明子が、入院中の叔母・恵子(岸本加世子)を見舞うために横浜から沼津へ向かう途中、東名高速道路で玉突き事故に巻き込まれて死亡したのだ。しかも取材で遠出をしていた正平がその知らせを受けたのは、事故から実に1カ月が過ぎた後のことだった…。かくして、正平は急きょ帰国することになった。ところが帰路の機内で、正平は一枚の写真を目にすることとなる。娘が亡くなった事故の瞬間を偶然捉えたというその写真には、無情にも娘の最期の姿が写し出されていた。娘はなぜ死ななければならなかったのか――帰国した正平はもはや、そのこと以外考えることができなかった。(C)テレビ朝日・東映【松本清張】1時間44分
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