映画「ホテルローヤル」のこと

映画「ホテルローヤル」終盤シーン
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映画「ホテルローヤル」と柴田まゆみの70年代ポップス「白いページの中に」が醸し出す空気感

原作は桜木紫乃の自伝的小説だが、本の方は短編集形式になっている。

様々な人生が描かれつつ、主題となる絵模様が浮かび上がってきて、最終的には何もかも失って初めて主人公が「愛されていたことに気づく」までのプロセスを描いている。

この作品(映画と本)の面白さは、「廃墟になったホテルローヤル」から始まり、「ホテルローヤル」を接点にした様々な人生のエピソードの断面の連鎖がストーリーの進行と重なりあいつつ、終盤に向かって時間が逆行して「ホテルローヤルの起源」にまで遡っていく設定。そして主人公が全てを失った後で〈両親の愛に気づく〉という体験に収斂していく構成になっているところ。

映画を見ていて最初は群像劇(無数の主人公がいる形式の物語り)かと思ったが、見終わって振り返って考えると、「当たり前の愛に気づくまでの雅子の心の成長を描く作りになっている〈複眼思考ストーリー〉になっているのだな、と。
時間軸を逆転させることで、〈起源〉や〈根源〉に遡っていく構成をストーリー化することに成功していて、あらためて小説の持つ可能性や物語の持つ力の大きさを感じさせられた。

〈起源〉や〈根源〉に遡っていく構成や演出によって、男女の愛や親子の愛よりもっと根源的な愛というか、そういう言葉で上手く言えない普遍的な愛を空気感として物語が描き出している、と感じた。

どんなに〈愛に恵まれていない〉ように見える人間でも、実は見えない愛に包まれているのかな? という不思議な感覚というか、「愛の中にいるのに、愛されていないという錯覚の中で人は生きているのかな?」という奇妙な感覚を感じさせられた。

映画の主題歌の「白いページの中に」は、柴田まゆみの1978年のヒット曲をLeolaが唄っている。

そして、その歌詞は不思議と映画・小説の主題と合っている。

「ホテルローヤル」主題歌 「白いページの中に」唄 Leola

本人が歌う「白いページの中に」 闘病後に・・・

闘病後に歌った「白いページの中に」 柴田まゆみさん

 デビュー後、引退。そして闘病後に歌った「白いページの中に」・・・・

 なんとなく、歌詞にリアルな重さがあるような・・・

柴田まゆみさん、デビュー当時の歌(78年ごろ?)

白いページの中に柴田まゆみさん

昭和のあいみょん? 才能とセンスだけではあの時代は活躍できなかったのかなぁ、と。

Leola 『白いページの中に』Music Video

Leolaさんの歌う 『白いページの中に』も、透明感のある歌声で令和版『白いページの中に』として遜色のない出来栄えだなーと。昭和ポップな曲調なのに、数十年経っても色褪せない響きのメロディーと歌詞。・・・その辺も「ホテルローヤル」とシンクロしてるなぁ、と。

ストーリー

北海道、釧路湿原を望む高台のラブホテル。雅代は美大受験に失敗し、居心地の悪さを感じながら、家業であるホテルを手伝うことに。アダルトグッズ会社の営業、宮川への恋心を秘めつつ黙々と仕事をこなす日々。甲斐性のない父、大吉に代わり半ば諦めるように継いだホテルには、「非日常」を求めて様々な人が訪れる。投稿ヌード写真の撮影をするカップル、子育てと親の介護に追われる夫婦、行き場を失った女子高生と妻に裏切られた高校教師。そんな中、一室で心中事件が起こり、ホテルはマスコミの標的に。さらに大吉が病に倒れ、雅代はホテルと、そして「自分の人生」に初めて向き合っていく……。 (C)桜木紫乃/集英社 (C)2020映画「ホテルローヤル」製作委員会

直木賞を受賞した桜木紫乃の自伝的小説を、「百円の恋」「全裸監督」の武正晴監督が映画化。北海道の釧路湿原を背に建つ小さなラブホテル、ホテルローヤル。経営者家族の一人娘・雅代は美大受験に失敗し、ホテルの仕事を手伝うことに。アダルトグッズ会社の営業・宮川に淡い恋心を抱きながらも何も言い出せず、黙々と仕事をこなすだけの日々。そんな中、ホテルにはひとときの非日常を求めて様々な客が訪れる。ある日、ホテルの一室で心中事件が起こり、雅代たちはマスコミの標的となってしまう。さらに父が病に倒れ家業を継ぐことになった雅代は、初めて自分の人生に向き合うことを決意する。波瑠が主演を務め、松山ケンイチ、安田顕が共演。脚本は「手紙」「イエスタデイズ」の清水友佳子。

2020年製作/104分/PG12/日本
配給:ファントム・フィルム
劇場公開日:2020年11月13日

参考資料:Amazonでの桜木紫乃の短編小説集「ホテルローヤル」の感想

2013年上期の直木賞受賞作品。2020制作の映画を観るまでは作者を存じ上げなかった。原田康子氏に師事したと言われ、今の私が注目する作家である。「連作短編集」だが、主題が「ラブホテル」と言うのが意表を突く。ものの本によればラブホテルと呼べる施設は外国にはなく、恋人たちは「愛の止まり木」を探すのに苦労するのだという。

この本は、時間軸が逆になっており、冒頭に廃墟と化した建物でのポルノ写真撮影のエピソードが登場し、続いてホテルの廃業から開店と続く30年間が語られる。時系列に書き替えれば、釧路の中卒看板屋の田中大吉が42歳に時に、「人に劣らない生き方をする」と一念発起して、建築会社とリース会社がタッグを組んだ計画に乗る。湿原が一望できる郊外の高台に6室の小さなラブホテルを開店するのだ。総工費1億円の凝ったつくりの安普請。高すぎる。両社の粉飾があったのだろう。大吉の方は資本金300万円の新会社を立上げるが、その半額は建設会社からの無期限・催促なしの借金だった。向う見ずな計画である。途中で妻子は離婚し、男は浮気をしていた団子屋の店員で21歳のるり子と再婚し女児を授かる。るり子は全て言いなりの従順な女だ。

毎月の手形の返済や運転資金の捻出に苦労しながらも、「眺めの良い部屋」はそれなりに繁盛する。大人の玩具やポルノDVDを卸す出入業者の男が言う「男も女も体を使って遊ばなければならない時がある」とか「ラブホテルはシティホテルと違い、一度来た客は必ずまた来る」とかの箴言めいた言葉通りに。妻の他にパート掃除婦二人と美大進学をあきらめたらしい娘を使い、経営はもっぱら妻の才覚に任せ、社長はパチンコで時間潰しをする日々である。

躓きは20年後過ぎに急速にやってくる。あれほど従順だった妻が、出入りの飲料店店員と駆け落ちする。書かれていないが相当な金額を持ち逃げしたのだろう。次にはホテルが高校教師と教え子の心中に使用され、週刊誌のセンセーショナルな話題となって客足が途絶え、落胆した大吉は71歳で脳溢血で死亡する。娘が引き継ぐが、老朽化するホテルの零落は止めようがなく、半年余りで閉店の憂目に出会う。売れ残りの玩具を引き取りに来た「えっち屋」の妻子持ちのクソ真面目な店員に長年の愛を告白した跡、ホテルの入口は施錠され、29歳になる娘はかろうじて残した半年ばかりの生活費を手に車で去る。かくしてホテル一代記の終了。

6室のラブホテル経理者に収まって「男を立てた」とうそぶく男の小さな自己満足。温和しいだけだった妻の経営経験から生まれた自信と夫への評価の変化。ラブホテルの看板を背に家族の記念写真を撮る能天気な男のひとり娘で、子供の時から嘲笑されてきたことを運命と受け入れる娘。そしてホテル客の哀歓がオムニバスで描かれる。ホテル客の「非日常」が従業員たちの「日常」だった。そんな「日常」を裏で支えた男と女たちは「必死に」「流されて」行くしかない。自動詞と他動詞の不分離状況が、この作品のテーマと読める。

日常と非日常を対比させながら書き分けてゆく作者の筆の冴えは尋常なものではない。そもそも「ホテルローヤル」の名前の由来は、8月に悪阻で悩む当時の愛人るり子に、せめてみかんを食わせてやりたいと諸所を駆け回った大吉が、デパ地下で見つけた木箱入り2個の早生みかんを6,000円で買ったその箱に「ローヤルみかん」と記されてあったのを転用したのだった。夢にすがって生きるしかないロマンチックな男と、脚を地につけたしたたかな女、フェミニズム小説の先駆けでもあった。

みかんと釧路湿原の美しい風景がこの作品のコアになっている

 監督は、釧路湿原の美しさを見て、「この作品の背景はこれしかない」と思ったそう。

 この映画でもっとも美しいシーンは、〈釧路湿原を大きな窓越しに描く娘の雅代を満足そうな目で見る父の大吉の姿〉を釧路湿原越しにカメラがバックして映し出す風景の美しさである。

 大吉は、妻にも逃げられ、娘にも嫌われ人生に失敗したように見える・・・・しかし、終盤で大吉の若い頃の「ホテルローヤル」に込めた想いと生まれてくる娘への願いを知ると、大吉なりにそれを叶えた「満足できる人生だったのではないか?」そんな安らぎを雅代は感じて微笑む・・・
 そして、自分を捨てて男と逃げた母も、ラブホテル経営など生業に自分勝手に生きてるようにしか見えなかった父も、「自分のことを心から愛していた」ことを実感する・・・

 釧路湿原を見渡すホテルローヤル・・・その中でいつも傍にあった風景を「あたりまえ」に生きてきた雅代。

 〈あたりまえ〉の風景(愛)に包まれ、それが存在して〈あたりまえ〉と思っているうちは、それが〈愛〉だとは気づけず、マイナスの体験をして初めてその〈あたりまえ〉に存在している〈愛〉に気づく・・・・

 小説と映画に共通しているのはそこなのかな、と思う。

あいみょん – ざらめ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 そして、あいみょんの歌は短編小説のようだったりする

あいみょんの歌詞と歌のセンスというのは、短編小説のモチーフに似てるのかなぁ・・・・と思ったりする。

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